福岡高等裁判所宮崎支部 平成3年(行ケ)1号 判決 1992年1月29日
原告 盛岡正博
<ほか六名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 正込政夫
被告 鹿児島県選挙管理委員会
右代表者委員長 松村仲之助
主文
原告らの本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 平成三年四月二一日執行の鹿児島県大島郡伊仙町長選挙及び同町議会議員補欠選挙(以下「本件選挙」という。)の効力に関する審査申立てにつき、被告が同年七月二九日に被告告示第三〇号及び同第三一号をもってなした各裁決(以下、合わせて単に「原裁決」という。)をいずれも取り消す。
2 被告は、訴外中熊勇、同大高昭、同樺山博良、同森厳、同稲川博位の被告に対する前項記載の各審査申立てをいずれも棄却せよ。
3 本件選挙を無効とする。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告らは、いずれも本件選挙における選挙人である。
2 原告らは、本件選挙の効力に関し伊仙町選挙管理委員会に対し、平成三年四月二二日、同年五月三日、同月四日にそれぞれ異議の申出をした。
3 原告らの右申出に対し、伊仙町選挙管理委員会は、同年四月二二日付告示第六一号、同年七月一六日付告示第六二号をもって本件選挙を無効とする各決定(以下「原決定」という。)をした。
4 請求の趣旨2項記載の訴外中熊勇外四名は、被告に対し、同年四月二六日に告示第六一号による原決定につき、同年七月一八日に告示第六二号による原決定につき、それぞれ審査申立てをしたところ、被告は、同年七月二九日、被告告示第三〇号及び同第三一号をもって、伊仙町選挙管理委員会がした原決定を取り消し、本件選挙を無効とする原裁決をした。
5 本件訴えの利益について
原告らは、本件訴えにおいて、本件選挙が無効であることを求めるもので、一見すると原裁決と同じ結論を求めていることになるが、次のとおり訴えの利益がある。
(一) 本件選挙の無効原因としては、(1)特定候補を支持する暴徒が違法に町選挙管理委員会に侵入し、その結果町選挙管理委員会の過失により不在者投票が不送致となったことによる不在者投票の送致に関する選挙規定違反(以下「無効原因(1)」という。)と、(2)開票場に数千の暴徒が集まり、投石を行ったり、一部は開票場に乱入したため、開票管理者が投票の有効無効の確認ができなかった等選挙会の手続に関する選挙規定違反(以下「無効原因(2)」という。)、の二つがある。
(二) ところで、伊仙町選挙管理委員会は、無効原因(1)のみならず無効原因(2)を認めて本件選挙を無効とし、本件選挙には当選人が存在しないので、当選人の告示もできないとしているところ、原裁決は、開票の手続は有効であることを前提として無効原因(1)のみを認めて本件選挙を無効としている。したがって、原裁決では本件選挙無効の訴訟が確定するまで当選人を告示すべきであるということになる。
(三) したがって、原決定と原裁決とには法律上の効果に差異があることになる。
また、原告らにとって、当選人が存在しないということに重大な利害を有しているばかりか、右のような騒乱の中の開票を有効とするならば、暴力をもってする開票妨害を認める結果となり、今後の町の選挙の公正を期し難いものとなる。
よって、原告らの求める本件訴えには法律上の利益があるものというべきである。
6 よって、原告らは、原裁決を取り消し、これが取り消された場合審査申立てに対する応答がないことになるので被告に対し右申立てを棄却するよう命ずること(給付判決)を求めるともに、二つの無効原因(1)、(2)による本件選挙の無効を求める。
二 請求原因に対する認否と被告の主張
1 請求原因1ないし4の各事実は認める。
2 同5について、被告が原告ら主張の無効原因(1)により本件選挙を無効と裁決したことは認め、その余は争う。
3 被告の主張
選挙の効力に関する訴訟は、都道府県の選挙管理委員会の決定又は裁決に対してのみ提起することができると規定され、いわゆる裁決主義がとられているが、その訴訟において裁判所は、選挙の規定違反があれば、選挙の結果に異動を及ぼす虞がある以上、その選挙の全部又は一部につき無効の判決をしなければならないと規定されており、選挙の効力に関する訴訟の対象は集合的行為たる当該選挙の効力そのものである。したがって、裁決に不服があるとは、選挙の効力に関し裁決と判断を異にする場合をいうものである。
しかるに、原告らは、本件訴訟において本件選挙を無効とする旨原裁決と同旨の判決を求めているのであるから、原告らは裁決に不服がある者に該当せず、訴え提起の利益を有しない。
また、原告らの請求の趣旨2項の審査申立ての棄却を命ずることを求める訴えは、何ら法律の規定に基づかない申立てであって、不適法である。
よって、原告らの本件訴えはいずれも不適法として却下を免れない。
理由
一 本件訴えの適法性について
1 請求原因1ないし4の各事実及び同5のうち、被告が結論において原告ら主張の無効原因(1)により本件選挙を無効とする原裁決をしたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。
ところで、原告らは、本件訴えにおいて、原裁決の取消し及び訴外中熊外四名の被告に対する審査申立ての棄却命令並びに本件選挙の無効を求めるが、その趣旨とするところは、結論において本件選挙の無効を求めるに尽きるというべきであり、ただ自らの主張する二つの無効原因(1)、(2)によって本件選挙が無効とされるべきであるとの見地から原裁決の取消し等を求めるに過ぎないものということができる。
2 しかしながら、選挙訴訟は、選挙の効力に関する不服を内容とする訴訟であって、この場合の選挙とは、選挙人名簿の確定や選挙期日の告示から当選人の決定等に至までの一連の集合的行為をいうのであり、選挙人若しくは候補者又は都道府県選挙管理委員会の決定若しくは裁決に不服がある者が都道府県選挙管理委員会を被告としてこれを提起することができ、その訴訟物は、異議申出及び審査申立ての手続における当事者の主張、異議決定、裁決の理由の当否ではなく、選挙無効事由一般の存否と解される。そして、選挙訴訟における選挙無効の原因とは、当該選挙において選挙の規定に違反することがあって、それが選挙の結果に異動を及ぼす虞があることをいい、かかる選挙無効の原因に該当する事実が存在する場合には、裁判所は必要的に選挙の全部又は一部につき無効の判決をしなければならないものであるが、もとより、格別の選挙の規定に違反する個々の無効原因の如何によって選挙無効の法的効果に一部無効の場合があるほかは差異が生じるものではない。
そうすると、原裁決は本件選挙を無効と判断しているのであるから、結論において原裁決と同旨の判決を求める原告らは、原裁決に不服がある者に該当するということができず、したがって、原告らは、本件訴えのうち、原裁決を取り消し、かつ、本件選挙を無効とすることを求める部分につき、訴えの利益を有しないといわなければならない。
なお、本件訴えのうち、訴外中熊外四名の審査申立てを棄却するよう命ずることを求める部分は、なんら法的根拠がなく、かかる訴えは、三権分立主義の制度上許されないものであって、それ自体不適法というべきである。
二 よって、原告らの本件訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鐘尾彰文 裁判官 中路義彦 郷俊介)